PQS・GMPでは、標準作業の文書化(SOPの作成)が行われる。その文書化された内容と実施される行為で乖離がうまれることがある。この乖離することを英語では、デカップリングと呼ぶ。デカップリングはなぜ生まれるのだろうか?
デカップリングを引き起こす要因についての先行研究がいくつか存在している。Heras-Saizarbitoria, I., & Boiral, O. (2015)らは、スペイン(バスク自治州)のISO9001の認証取得企業 8社に対して65件のインタビューや文書の分析を実施している。その結果、デカップリングの原因として次の6点を挙げている。①認証取得の動機(内発的改善志向か、外圧・市場志向か)、②コンサルタントの関与(内製支援か丸投げか)、③経営者・中間管理職のリーダーシップ、④従業員の関与、⑤文書の使いやすさ・現場適合性、⑥組織状況。
いずれの項目にしても、いかにしてISO9000のシステムを自分たちのものにしているかということだと理解できる。自分たちのものにする、ここでは、「内在化」と呼びたい。例えば、ISO9000の認証を取得するための目的が「認証を得るため」なのか「品質改善をするため」なのかによって「内在化」の程度は異なり、デカップリングの程度も異なるということらしい。当たり前だ。強いられた行為よりも自発的な行為のほうが効率が良いし、モチベーションも異なる。
これらのデカップリングの要因は、多くの人にとっての実務経験的に頷けるものだと思う。PQS・GMPは、ISOの認証とはことなる。しかし、少なくとも最初は、規制上の必要性から実施するものだ。その中で、究極的に患者が不良医薬品を使用しないためにという目的で、GMP・PQSの実行が真に内在化されていく企業もあれば、いつまでも「強いられるもの」という意識が強い企業もでてくる。監査をしていると、責任者からの説明が不十分であったり、作業者が作業の目的感をいまいち理解していないと思われるケースがある。つまり、手順が内在化していないのである。そういった企業には、デカップリングが起きている可能性が高い。
Heras-Saizarbitoria, I., & Boiral, O. (2015). Symbolic adoption of ISO 9000 in small and medium-sized enterprises: The role of internal contingencies. International Small Business Journal: Researching Entrepreneurship, 33(3), 299–320.