ICH Q3E (E&L) ガイドライン案の公開について(その8)

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2025-10-14

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内容

先週(2025/10/10)E&Lガイドラインに関するPMDA主催の説明会が開催され,説明会で質疑応答のやりとりがありましたので,全質疑(重複した質疑は略)についてポイントを抜粋して記載します。

  • 本ガイドラインは既存の製剤には適用されないか。
    • 既承認であっても,処方,製造,投与,容器施栓系等,溶出プロファイル又は患者曝露に影響する可能性のある変更は適用。
  • 一般用医薬品は含まれるか。
    • 含まれない。
  • 一般用医薬品の外用剤は含まれるか。
    • 含まれない。
  • Safety Expertの関与は必須か。Safety Expertの資格要件は定義されるか。
    • 義務付けや具体的要件を示す指針案ではない。
  • E&Lリスクを増大させる圧力の基準は?
    • ろ過フィルター等を想定。
  • 二次容器を含む薬液と非接触な部材の抽出物/溶出物データの必要性?
    • 一次包装として半透過性容器を採用している場合等,二次包装からの溶出物リスクを否定できない場合必要。
  • 「AETを超え,かつ適用される安全性閾値を下回る抽出物が全く/ほとんど検出されない場合」の意味が読み取りづらい。
    • 先ずAETを超える抽出物/溶出物の有無の判定が行われた上で,AETを超える抽出物/溶出物が認められた場合のみ,当該抽出物/溶出物の構造決定とQT値を用いた安全性評価が行われることが実際には想定される。
  • Risk Controlで示されるacceptance criteria及びquality agreementはCTD上どのように取り扱う意図か。
    • CTD上の何らかの記載を指定する意図はなく,該当すれば溶出物に係る包括的な説明の中に含めること。CTDについては,現在Step 2のM4Q(R2)の議論も踏まえる。
  • 保管条件が凍結の原薬においても,凍結前と融解後は溶液の状態であるため,適用されるとの認識でよいか。
    • 液状で接触している状態について考慮すべきとなっている。
  • 原薬容器で,抽出物試験でAETを超える物質がない場合,溶出物試験は不要か。
    • 液状の原薬では長期保存時に溶出物が認められる可能性があり,何らかの妥当性を示すことになる。
  • ゴム栓とバイアルの組合せで,抽出試験を実施すれば抽出物データと利用可能か。
    • 接触面積として保守的になる点や個別の部材の供給者情報を利用する等を想定に含めている。妥当性を示すことができる試験デザインであれば,受け入れられる。
  • Similar materialとはtube, filter等で分類するか,PP, PEで分類するのが適切か。
    • 同じ原料を使用していれば,同じ溶出物が認められても不思議はなく,その観点での指針案となっている。
    • ※直接的な回答になっていないように思われるが,材質の要因が大きいとの意図ととらえられる。
  • 原薬の凍結融解前後の保管温度及び保管期間をカバーして,溶出物への影響を含めて条件設定することで凍結保管原薬の容器の評価は代替可能か(凍結の長期間の評価に代えたいとの意図)。
    • 液状で接触している状態について考慮すべきとなっている。
  • バイオ医薬品で製品毎に正当化する必要は?最終精製工程で溶出物が除去できると正当化した場合,(個別の品目について)培養工程を評価対象外とできるか。
    • 製品毎に正当化することを期待している。その際に,同様の製造工程の既存の知識の利用は可能。
  • 製造/包装の部品/システムの材質名又は部材の型番等について,CTDへどの程度の記載が必要か。
    • CTDにおける何らかの記載を指定する意図はない。CTDにおける記載は,Step 2となっているICH M4Q(R2)の議論も踏まえる。
  • 抽出物試験をモデルケースにより解説してほしい。
    • ケース:溶液製剤(投与量1mL),供給者情報(低分子エステル・カルボン酸類の溶出可能性),抽出物試験(酸性・塩基性・アルコール性等;GC-MSにて既知のエステル・カルボン酸をAET以上で確認;市販試薬を標準物質とし,エステルは許容限度値に対して十分少ない),溶出物試験(抽出物試験で用いた試験法で,カルボン酸についてAETを十分下回る結果;安定性試験で継続確認)
  • 予定している製剤処方の抽出力が低く,中性付近のため懸念材料がない場合,どういった抽出物試験条件を想定すべきか。
    • 個別製品毎に想定しうる変動要因を踏まえたワーストケースを定める必要がある。画一的な条件であらゆる製剤をカバーできないという立場からQ3Eでは標準的な抽出条件は提示していない。実際の薬液より高い抽出力を有し,pH規格の上下限の外側を選択する等があるが,詳細はPMDAの対面助言も検討いただきたい。
  • 投与経路を理由に,揮発性有機化合物の分析を不要とすることは妥当か。低含量の揮発性成分は前処理で損失し,LOQ未満の分析が困難。
    • 揮発性のものでも薬液に溶け込むような成分は考えられる。容器に対し試験液量を低減した状態で確認するように模擬的方法を含めた指針案となっている。
  • 加速6箇月又は加速プラス室温長期での溶出物試験は認められるか。
    • 実保存条件での評価が求められていることから,通常,長期保存試験での分析結果を中心に評価することになる。加速試験を補足的に利用できる場合もあるが,一律に必要なデータと位置付けられていない。
  • 医療機関が保有する輸液で希釈して投与するケースは多種多様であり,それを前提としたリスク評価は必要か。
    • In-use periodを通じたリスク評価が求められる。薬液の調製・投与に用いられるフィルター,シリンジ,ライン等の資材(医療機関が調達する市場流通品)にガイドラインで明確な規定はない。対象についてさらなる明確化を希望する場合はパブコメで意見をいただきたい。
      ※当局の現在の認識では,Step 4で対象が明確にされない限り,希釈に用いる輸液やライン等全てを想定して溶出物試験を検討することを求めている。
  • 表1で,非経口の全身毒性において,曝露期間が短いとQTがTTCより厳しくなる理由及び妥当性は?
    • 変異原性と非変異原性では毒性発現機序が異なるため,閾値は異なる経路により算出されている。
  • Q3C, Q3D, M7ではPDEは50kgを改訂しており,標準体重60kg, 70kgに対して追加の安全係数を設定している記載や,小児に対する体重補正も含まれている。Q3Eで設定するQT, PDEの考え方は?
    • Q3Eにおいても,Q3C, Q3D, M7にならう。
  • BHTは酸化防止剤として一般的に使用されており,製剤によって添加剤として使用しているものもある。この場合,安全性評価はどのように進めるか。
    • 意図的添加量と溶出量の総量で安全性評価を行うべき。
  • AETの具体的な算出例は?
    • 補遺3。SCTで求められた数値を当該製剤の体積で割る。
  • 既承認で,同じ材質のチューブを使えば低リスク,PFAからPVDFに変更する場合同じフッ素系だが,どのように考えるか。
    • 供給者の違いを含めてリスクに応じた対応をすべき。
  • E&Lの同定について具体的な基準や方法の言及がない。対象化合物の多様性を考慮すると全化合物を完全に同定することは限界がある。なぜ指針が示されないのか。
    • 個別の手順は取り上げない。(全化合物全体を)完全に求めるものではない。構造解析が不完全であっても,妥当性が示せて毒性学的な根拠が示せればよい。
  • 具体的な公定書を示していただきたい。
    • 一般的には,JPのプラスチック製医薬品容器試験法。
  • 供給者等から結果を原資料として入手できれば抽出物試験,溶出物試験を不要と解釈したが,「要件を示した場合」が示す具体的な条件は?
    • ガイドライン4.3.1, 4.3.2。
  • Step 5の実施までに,E&Lに関する評価を新薬申請時に求められるか。
    • 現在の運用を変更する予定はない。既にバイオ医薬品で求めている製品群はある。
  • 液体原料・液体原薬メーカーに対応が求められるか。
    • 液体原薬の最終のボトルの容器からのものは対象。
  • 本文に例示されない投与経路における局所毒性はどのように対応するか。
    • ガイドラインは全てを網羅することを意図していない。個々については,必要に応じてPMDA相談。

執筆者

寶田 哲仁 (たからだ てつひと)

現職:株式会社ファーマプランニング シニアコンサルタント


1983年 持田製薬株式会社入社

27年間品質保証業務を経験、この間、製造管理者・品質保証責任者等経験

2016年独立行政法人医薬品医療機器総合機構

GMP・GCTP調査(シニア調査員等)の他、アジアトレーニングセンターにて東南アジア諸国等の査察官指導体制の確立及び運用に関わる

2021年 学校法人東京理科大学研究推進機構総合研究院究

ヒト細胞加工製品のQbDアプローチ関連の研究支援の他、知識管理・品質文化に関する研究

2023年 現職にて、GMP・GCTPコンサルティング(PMDA/FDA対応等)


過去、日本製薬工業協会(JPMA)品質委員会GMP部会委員、ICHでJPMAの専門家として Q7、Q8R、Q9、Q10のガイドライン/Q&Aの作成、PIC/S WGにてAnnex 2A作成、厚生労働科学研究等でGMP省令改正案、GMP監査マニュアル等の作成に関わる。

 現在、継続して、国立保健医療科学院医薬品医療機器の品質確保に関する研修で講師の一人として都道府県の薬事監視員教育に関わる。公益財団法人神戸医療産業都市推進機構外部アドバイザー(GCTP関連)