Lean PQS™論考 その1

Date

2025-08-15

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内容

「Lean PQS」は、ファーマプランニングが考案している新しいPQSのモデルである。GMPコンサルティングの過程でしばしば、クライアントの組織においてPQS・GMPのあり方が「過剰」であることを見てきた。その努力が「不足」するのと同じくらい「過剰」であることは望ましくない結果をもたらす。そういった課題感の中から、よりエッセンシャルにより効果的にPQSを実装し運用するモデル「Lean PQS」のあり方を模索している。

QMSの発展の系譜

医薬品品質システム(PQS)とは、ISO9000族の品質マネジメントの概念を医薬品に適用したシステムのモデルである。つまり、PQSの本質を語るためには品質マネジメントそれ自体とその進化の系譜を多少なりとも紐解いていく必要がある。

品質マネジメントシステム(QMS)の起源は、製品を「作ってから検査で弾く」発想から、「工程のばらつきを測って抑え、不良を未然に防ぐ」発想への転換にあったらしい。

それは、コーヒーをつくるときにいい加減につくって「不味ければつくりなおす」方法から、豆の挽き方、湯温、抽出時間等の「作業を一定に保ってつくる」方法に変えるようなものかもしれない。

また、コーヒーを淹れる人はしばしば飲む人でもあるため、飲むたびに味覚と相談しながら作り方が自然と洗練されていくのに対して、特に工業製品は、つくる人≠製品の受益者であるから、自然のなりゆきで、工程が改良されていくのは難しいのだろう。それは、要求をする人(コーヒを飲む人)と要求に応える人(コーヒーを淹れる人)の不一致ということだ。近代の工業化・大量生産によってその不一致はあらゆる製品にあらわれたに違いない(そして、それこそが品質マネジメントの出発かもしれない)。

1920年代、ウォルター・シューハートが管理図を提案して統計的品質管理(SQC)の基礎を築き、戦後はデミングらの普及により日本で全社的品質管理(TQC)が発展していった。品質を“現場だけでなく組織として運営する”という考え方がここで明確になったのである。

同時期に、軍需・公共調達の分野では「文書化された品質プログラム」を求める要求が整備され、1959年に米国防総省のMIL-Q-9858が登場する。経営責任、設計・製造・検査の手順化、記録の維持と監査といった要素が制度化され、後の民生向けQMSの雛形となった。これを土台に、1979年には英国規格BS 5750が業種横断の汎用規格としてまとめられ、第三者認証の仕組みとともに「品質システム」を社会に広く根づかせることとなる。

この系譜をちょっと単純に捉えてみると、QMSは、統計ツールの開発から論点をより拡大させ、組織論的なシステムアプローチの領域へと至っていることがわかる。そして、それは、ある意味必然的な発展であったのだと想像したりする。

統計的な分析ツールによって既存工程の「傾向の可視化」が達成される。可視化した情報から、改善を行なって安定的なプロセスがひとまず「完成」したものとすると、その次の興味は「その状態を維持すること」へと移るはずだ。そして、「その状態を維持する」ためには、工程の様々なファクターに着目する必要がある。人、設備、方法等。人はエラーを起こすものであるし、設備は経年的にその性能が劣化していく。プロセスに問題がなくてもその周囲の領域で問題が起こる。それは、例えば、料理のレシピが完全でもそれを取り扱う人や器具がおかしければ味の再現ができないようなものだ。

さらに、既存の工程の改善と維持のみならず、新しい工程の設計開発を適切に行うことも必要となる(品質がつくりこまれるのはそもそも設計からだ)。その設計をいかに行うのか、いかに検証するのかといった点も焦点になっていった。

そして、やがて品質マネジメントは、「現場の課題」から「経営の課題」として捉えられていく。

1987年、国際標準化機構(ISO)がBS 5750をもとにISO 9000/9001を初版発行し、QMSは国際共通言語となった。1994年改訂では手順の整合性と文書化が強調され、2000年改訂でプロセスアプローチと継続的改善、顧客満足の測定が中核に据えられた。2015年改訂では上位構造(Annex SL)に整合し、組織の文脈やリスクに基づく思考が導入され、経営マネジメントとの接合が一段と強化された。

(続く)