Lean PQS™論考 その1 QMSの系譜

Date

2025-08-15

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内容

「Lean PQS」は、ファーマプランニングが考案している新しいPQSのモデルである。GMPコンサルティングの過程でしばしば、クライアントの組織においてPQS・GMPのあり方が「過剰」であることを見てきた。その努力が「不足」するのと同じくらい「過剰」であることは望ましくない結果をもたらす。そういった課題感の中から、よりエッセンシャルにより効果的にPQSを実装し運用するモデル「Lean PQS」のあり方を模索している。

QMSの発展の系譜

医薬品品質システム(PQS)とは、ISO9000族の品質マネジメントの概念を医薬品に適用したシステムのモデルである。つまり、PQSの本質を語るためには品質マネジメントそれ自体とその進化の系譜を多少なりとも紐解いていく必要がある。

品質マネジメントシステム(QMS)の起源は、製品を「作ってから検査で弾く」発想から、「工程のばらつきを測って抑え、不良を未然に防ぐ」発想への転換にあった。



1920年代、ウォルター・シューハートが管理図を提案して統計的品質管理(SQC)の基礎を築き、戦後はデミングらの普及により日本で全社的品質管理(TQC)が発展していった。品質を“現場だけでなく組織として運営する”という考え方がここで明確になったのである。

同時期に、軍需・公共調達の分野では「文書化された品質プログラム」を求める要求が整備され、1959年に米国防総省のMIL-Q-9858が登場する。経営責任、設計・製造・検査の手順化、記録の維持と監査といった要素が制度化され、後の民生向けQMSの雛形となった。これを土台に、1979年には英国規格BS 5750が業種横断の汎用規格としてまとめられ、第三者認証の仕組みとともに「品質システム」を社会に広く根づかせることとなる。

表 品質マネジメントに関する主な出来事

主な出来事
1924シューハートが管理図の草案を提示
1931シューハートが管理図を体系化(著書刊行)
『Economic Control of Quality of Manufactured Product』刊行(SQCの体系化)
1950デミングが日本で講義、TQC発展の契機に
1951フェイゲンバウム『Total Quality Control』出版/デミング賞創設
1959米国防総省がMIL-Q-9858を制定
1979英国規格BS 5750発行(民間QMSの原型)
1987ISO 9000/9001初版発行(国際標準化)
1994ISO 9001:1994(文書化重視)
2000ISO 9001:2000(プロセスアプローチ導入)
2008ISO 9001:2008(要求明確化)
2015ISO 9001:2015(リスクベース思考・Annex SL整合)
2024ISO 9001:2015/Amd 1:2024(気候変動考慮の明文化)



「道具」から組織的アプローチへ

この系譜を単純化して捉えてみると、QMSは、統計ツールの開発から論点をより拡大させ、組織論的なシステムアプローチの領域へと至っていることがわかる。そして、それは、ある意味必然的な発展であったと考える。

統計的な分析ツールによって既存工程の「傾向の可視化」が達成される。可視化した情報から、改善を行なって安定的なプロセスがひとまず「完成」したものとすると、その次の興味は「その状態を維持すること」へと移るはずだ。そして、「その状態を維持する」ためには、工程の様々なファクターに着目する必要がある。人、設備、方法等。人はエラーを起こすものであるし、設備は経年的にその性能が劣化していく。プロセスに問題がなくてもその周囲の領域で問題が起こる。それらの問題に対処するためには、様々な要素を統合した組織論的なアプローチが不可欠である。

さらに、既存の工程の改善と維持のみならず、新しい工程の設計開発を適切に行うことも必要となる(品質がつくりこまれるのはそもそも設計からだ)。その設計開発をいかに行うのか、いかに検証するのか、いかにして品質を定義して達成するか、リソースをいかに配分するかがといった点も焦点になっていった。そして、やがて品質マネジメントは、「現場の課題」から「経営の課題」として捉えられていく。

1987年、国際標準化機構(ISO)がBS 5750をもとにISO 9000/9001を初版発行し、QMSは国際共通言語となった。1994年改訂では手順の整合性と文書化が強調され、2000年改訂でプロセスアプローチと継続的改善、顧客満足の測定が中核に据えられた。2015年改訂では上位構造(Annex SL)に整合し、組織の文脈やリスクに基づく思考が導入され、経営マネジメントとの接合が一段と強化された。






更新履歴
2025年11月5日:図及び年表を追加しました。文章表現を一部修正しました。